「釈宗演と『大乗仏教』」

2019.07.17

「中興開山 釈宗演老師没後100年記念事業」の一環で開催しております講演会、第二回目は、下記の内容で6月23日に開催されました。

「釈宗演と『大乗仏教』」
講師:馬場紀寿先生(東京大学東洋文化研究所 教授)

幼少からの厳しい修行の後に、円覚寺の今北洪川老師より印可をいただき(悟ったと認められる事)、それだけでは飽き足らず、慶應にて福沢諭吉から英語を学び、南方仏教を学ばんとセイロン留学した宗演老師(下写真は、老師が修行されたランウェルレー寺とスリランカはゴールの海)。

この略歴だけでも通常の禅僧の道とは違っていますが、さらに、老師の著作では、世界的な仏教学者7人の事に言及している事からも、英語が堪能であった為、19世紀のインド学・仏教学の成果も読みこなしていた事が伺い知れるとか。

 

また、セイロンでパーリ語を学び、西南佛教の概要を把握した上で、「東北佛教=大乗佛教/西南佛教=小乗仏教」という図式を提示。この英訳であるMahayana Buddhism(大乗仏教)と、Hinayana Buddhism(小乗仏教)は、後に弟子でもある鈴木大拙により、英語圏の仏教学に導入されました(小乗仏教という呼び方は大乗に対する貶称だとして「上座部仏教(Theravada Buddhism)」に変更されました)。
東アジアやチベット仏教を指す場合に「大乗仏教(Mahayana Buddhism)」という概念が今日定着しているという点で、宗演老師は日本語、英語の両方で仏教の言説形成に大きな役割を果たしたのだとか。
当たり前のように知って使っていたこの言葉が、馬場先生のお話を拝聴して初めてさらに身近に感じる事となりました。
また、イギリスの仏教学者、T.W.Rhys DavidsによるPali Text Society設立は、宗演老師に「西洋に仏教が広まる」という確信を抱かせ、鈴木大拙ら弟子を米国へ送る契機となったとか。

宗演老師の弟子である釈宗活がアメリカで布教活動をし、さらにその弟子である佐々木師月も同じく、そしてまたその弟子であるルース佐々木は、日本にやってきて臨済録の英訳本を刊行しました。
私が京都にいた頃、ルース佐々木が通ったという大徳寺の塔頭では、今でも多くの外国人が早朝坐禅にやってくる姿をみかけていました。当時、ルース佐々木の事も知らなかった私には不思議な光景でしたが、あの謎がこんなところで紐解けるとは思いもよりませんでした。釈宗演老師からの流れは、欧米諸国で禅を広めるのみならず、日本でも、海外から来た人々に禅の教えを伝え続ける繋がりを生んでいるのでした。

さらに老師は、セイロン留学で、東洋人蔑視の難に遭遇されたこともあり、イギリス支配にあるインドなども、統一仏教としてアジアがまとまれば、独立させられるのではないかと本気で考えていらしたようです。なんという菩薩行でしょうか。大乗中の大乗と申しますか、そのお考えの及ぶ広さに圧倒されると共に、とても勇気を与えられます。

また、このような老師がいらした同時代に、鈴木大拙という類まれなる才能を持った居士、弟子がいたことも、不思議と申しますか必然と申しますか…。
仏教の教えが持つ力を誰よりも知り、信じていた方なのだろうと想像するのでした。

次回の講演会は、駒澤大学総合教育研究部教授の、小川隆先生におこしいただき、「釈宗演老師と『禅海一瀾講話』」という演題でお話いただく予定です。詳しくはこちらをご覧いただき、お申込みいただければと思います。