蒔絵展 室瀬和美氏講演会

2019.03.12

皆さまにも度々ご案内して参りましたが、先日3月10日(日)、重要無形文
化財「蒔絵」保持者(人間国宝)の室瀬和美先生にご講演いただきました。
講演内容としましては、東慶寺所蔵の重要文化財・葡萄蒔絵螺鈿聖餅箱の修復と、その復元品制作についてが主なところでした。

修復というのは、元通りの姿に戻すのではなく、現状の姿からさらに痛みが激しくなったり、損壊したりしないように処置を施す事によって、後世に長く伝えてゆこうという目的があります。
これまで、誰の手に取られ、どのように使われて来たかはもはや私どもの知るところではありませんが、その刻まれた歴史に敬意を払いつつ手を入れるのが日本の修復のあり方です。

そして復元品ですが、重要文化財指定を受けた宝物は、年に数日しか皆さまにご覧に入れる事が叶いませんので、そういった意味で復元品があればその元の姿を少しは長い期間ご覧いただく事ができます。
そして、その物の元の姿を見極めて復元してゆく過程で、作られた当時の職人の技術や、時代背景までもがわかってくる事があったり、近頃ではCTを使って木地まで調べる事ができたりと、職人の皆さまにとりましても、大変勉強になるとのことでした。

修復過程や復元過程の様々な画像を拝見しつつのお話に加え、日本では縄文時代まで遡る漆の文化の変遷や、如何に日常生活に使うのに優れているのか…までもお話していただき、最後にはご参加の皆さま、きっと「飯椀、汁椀は漆のものを使おう!」という思いになられたのではないでしょうか。

熱伝導率が低い為、冷たいものも温かいものも、最後までそのままに美味しく頂戴できるのが漆の器の特徴です。それでいて、持つ人には漆のあのすべすべしつつも、しっとりとした質感が心地よく、中の物の温度を伝えにくいため、持ちやすいわけです。

ちなみに、「漆は弱いのでは?」などと思っていらっしゃる方も多いかと存じますが、きちんと木地を寝かし、漆が塗り重ねられたもの(それなりのお値段するもの)は、そんなに弱くはありません。
どんどん毎日使って洗える器で、ちょっとした約束事さえ守れば、何十年何百年と受け継げるものです。何万円もしても、実はお高くはないわけです。
毎日何度か使うもの、そして一生使えると思えば実はお安いくらい。日々のくらしに良いものを使うという豊かさまでついてきます。

東慶寺の和尚が使う四つ椀(上写真)は、先代住職が使っていたものを受け継いだもので、既に40年以上使っています。この風合い、風格は、日々使い続けてきたからこその賜物です。似せて作ろうと思っても、新しいものでこのようには作れないわけです。

私はお寺に嫁に来て少ししてから作ってもらいましたので、まだ2年も使っていません。今後のこの四つ椀の変化は、自分の変化にもなぞらえる事ができるのでしょう。

先生のご講演は、専門的なお話から、日常で使う漆器についてまで多岐にわたり、2時間があっという間でした。お話を拝聴してから観る「蒔絵展」もまた違ったものになったかと存じます。

今回の蒔絵展では、室瀬先生が登山家の三浦雄一郎さんの為に作ったお椀、「ちょもらんま」も展示販売させていただいております。チョモランマ登頂付近の、昼は50℃、夜はマイナス40℃の世界で、三浦氏や登頂隊の食事の際、どれだけこの漆椀が皆さんのお腹と心をあたためたことでしょう。

極限の世界でもその効果を発揮した漆器のすばらしさをお伝えできればと思っております。お手にとっていただけるようにしておりますので、お買い求めではなくても、ご遠慮無く触れてみてください。


先生の作品集も置かせていただいております。素晴らしい作品の数々のみならず、京都の名料亭・瓢亭のご主人や女優の檀ふみさんその他の方々との対談、蒔絵に使う道具類、作業場の風景など内容が充実した一冊となっております。
どうぞページをめくってじっくりご覧になってみてください。
皆さまのご来山、季節の花々と共にお待ち申し上げております。

【東慶寺蒔絵展】
東慶寺・松岡宝蔵にて
5月6日(月)まで
9時~15時半(月曜休・祝日の場合は開館し、火曜休)